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 トイアンナさん『モテたいわけではないのだが ガツガツしない男子のための恋愛入門』の書評です。献本でいただいたのですが、正直なところでいきたいと思います(御本人からいただいたわけではありません)。

 最初に言わねばならないことは、トイアンナさんのネガティブな評判(「看板に偽りあり」などと言われていること)に対する私の立場です。

 確かにトイアンナさんは旦那さんから離縁を告げられており、成功の実績があるかどうかのネガティブチェックをすれば、首をかしげるところもあります。

 ただ、ひとの話を聞いたり、本を読んだりするときに大事なことは、「相手が自らを棚にあげていようがなんだろうが、じぶんにとって有益なことが語られているかどうか」です。

 特にノウハウ本を読むときは、著者に向けるシビアなネガティブチェックをすこしでもじぶんに向けてみることが大事です。本書の場合、トイアンナさんが実績を持っているかどうかチェックするリソースがあるなら、じぶんが恋愛や交際についてどれだけ経験値があるのかに目を向けるとよいでしょう。

 私にとって、本書はとても重要でした。プライベートなことを含めると、いいタイミングで読めたな、と思います。私の立場をふまえたうえで、書評をしていきますね。以上も以下も、ぜんぶ私個人の感想です。

 

 まず、この本について端的に言えば、「アクは強いが非常に有益」です。本書のアクというのは、鳴りを潜めている著者の自己愛です。「ロマンチックを諦めたけどセオリーでわかっちゃった私」に付き合うことができれば、ひとつの確立された価値観をスッポリいただくことができます。繰り返しますが、これはとても重要なことです。

 おそらく著者もアクを正確に自覚しているのだと思います。「文章が面白ければ私の文章は読める」という確信をもって書いているのが伝わってきますし、私も完全にアグリーです。ウェルバランスドな文章でズルいです。この手のエリート系恋愛ノウハウ指南本で、上位互換のないはじめての感触です。

 「はじめに」から引用します。

この本では、女性が「ナシ」と判断する際の基準を明らかにし、その基準を簡単に超えるノウハウをお伝えします。「そんなことまでして彼女を作らなきゃいけないくらいなら、独り身のままでいい」という考え方も一理あるでしょう。けれど「ナシ」の基準を超えるのはとても簡単なことなので、私から見ると「ささいな理由で、あなたの素敵な性格を見てもらえなくなるのはもったいない」と思います。――「はじめに」p.6

 本書では「モテの入門の入門」あるいは「モテの基礎の基礎」が語られます。明確な〈入り口〉についてです。若い頃から入り口を見つけてきたひとにとってはやや退屈な内容ですが、入り口があることさえ知らなかった男子にとってはバイブルです。

 仕事で言えば「上司とうまくいかない、年上って苦手なんだよなあ」に対して、「いや、そうじゃなくてまずは報告・連絡・相談を徹底してごらん」という話です。通り過ぎたひとからすれば、超、超、超、基礎的なことがらについて、気持ちよく、一個一個、客観的に検証して、逃げられないように言い放ってくれる本です。

 逆に、この本に欠けている視点は、「打算的に始めた恋愛で、その後、大丈夫ですか?」という部分です。私も(業務で)山ほど恋愛相談をやってきたのですが、打算的なアイデアと一般論的な人間関係には賞味期限があることに気づきました。著者も旦那さんから離縁を告げられています(『離婚して、わんわん泣ける女になりたかった。』)し、最後の四章「深いお付き合いをする」でも、特に深いお付き合いについては書かれていません。

 気をつけたほうがいいことは、入り口から正攻法で入ったところで、セオリーを会得したところで、恋愛を工学化したところで、「自分自分」的な交際にはリミッターが付いているということです。人間というのは、なぜか知りませんが、言ってほしいことをじぶんで言うことはできないのですね。

 恋愛指南シーンに登場するエリート系が、自らの恋愛(モテ系の人間関係)でうまくいっていないのも、「なんでもじぶんで」病に罹患しているからだと思います。じぶんが言ってほしいことを「じぶんで」言えれば、恋愛エリートは苦労しないでしょう。セオリー化することもないでしょう。本を書くこともないでしょう。著者には、まだその限界が見えていないと個人的に思います。あとがきから引用します。

愛することって、難しい。けれどそれは愛することそのものより「愛を伝えること」が難しく見えているように思えます。(…)私もまだまだ修行中の身です。たくさんの穴にも落ちてきました。だからこそ読者のあなたは私と同じ穴に落ちず、この本で成功していただければと思います。――「おわりに」p.236

 愛に関するなにかが「難しい」のだとすれば、それは「じぶんで」というやりかたが通用しないところでしょう。モテのノウハウというのは、あくまで心理戦で勝つためのノウハウでしかありません。じぶんへの興味の変奏にすぎません。読者は、この部分に注意が必要です。

 じぶんへの興味をどこまでスペシャライズしようとも、それはじぶんへの興味なのです。「心理戦に勝ったことで、あなたの大切なひとが幸せになるのか」と自問することはできません。心理戦に勝つことと、相手が幸せになることをブリッジすることに興味を持たないひとは、著者の言っている「穴」に一緒に落ちると思います。

 この「モテたいわけではないのだが」というタイトルのよさは、いまの時代の、相手を大切にしたいけど入り口に入れない男子に寄り添ったものだと思います。素晴らしいです。内容がそこまで追いつけていないのですが、完璧な本というのは存在しないので仕方ありません。メッセージは十分に感じられる良書です。あとは読解する側の責任です。

 本書を読解するということは、著者が隠蔽した「穴」を理解したうえで、一般論(generalization)で語れることと語れないことを見極めることです。その意味がわかるでしょうか。たとえば「浮気」について一般論やセオリーで語ろうと思うと即座に破綻するということです。ほかにも「愛」「人生」「幸福」「仕事」「勉強」「心理」など一般論化できないことはたくさんありますね。

 逆に、個別の事情を(ほとんど)待たずに使える知識というのも少なからずあります。そういう部分に重要な価値があります。たとえば、第一章「ファッションをととのえる」には、三つの常識が掲げられています。(p.17-20)

常識① 女子は服で男に惚れない(服で足切りはするが加点はしない)
常識② 鏡にチューできるかで「清潔感」は決まる
常識③ 女性にメンズ服の値段はわからない(社会性のある服のほうが大事)

 これは「報告・連絡・相談」ぐらい重要なポイントです。絶対に覚えておいたほうがいいです。この見出しだけでピンと来ないなら、なおさら読んだほうがいいと私は思います。上手に言語化されています。

 ほかにも、第二章「メンタルをととのえる」内の「そつなく彼女ができる男性がやっていること」(p.79-83)では、三つの項目が挙げられています。

・相手と対等に接するメンタルを持つ――相手が佐々木希さんのような美人だろうが普通に接する。
・「これがあればモテなくても幸せ」と言えるものを持つ――女性との交際をオプション化する。対人関係の緊張は「この人に嫌われたくない」という思いから生じる。
・「彼女を選ぶ理由」が明確である――美人と付き合いたいならまずは周囲に自分は面食いだと宣言する。納得しやすく誘いに応じやすい。

 上記は重要な指摘です。たとえば「プレゼンがうまくいかない、聞き手のセンスがない」と言っている新人社会人に対して、「相手が食いつく情報をリサーチした上でそれに乗せて発表しろ」と言うようなものです。個別の事情を待たずに、大きな保留をつけずに共有できることを見抜くことができるとよいでしょう。

 本書を献本でいただいたのですが、これはじぶんで買いだなと思いました。二冊あってもしょうがないので、この本が必要そうな友人に贈ります。たくさんのノウハウが詰まっていて、686円、リーズナブルです。

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『モテたいわけではないのだが ガツガツしない男子のための恋愛入門』
出版社:イースト・プレス
カバーイラスト:月ノ輪ガモ
カバーデザイン:福田和雄(FUKUDA DESIGN)
ブックデザイン:タカハシデザイン室
初出:『メンズファッションプラス通信』「トイアンナの男子改造計画」(大幅加筆修正)