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 かつての私は、なかなかの完璧主義者(perfectionist)でした。完璧主義者は、じぶんにとって重要なことに絶対的な評価をしがちだといいます(irrational belief)。

 その独断的なイラショナルビリーフとやらを治そうと、今度は全員の正解を参照するようになりました。とても極端です。全員の正解なんてありえないので、なんとなく全員の考えで薄まった解ができあがります。組織にありがちな同質化です。

 そうこうしているうちに、「自分」や「他人」の面倒くささに嫌気がさしたのをおぼえています。人間って面倒くさい。それだけが印象として残ったのですね。

 ただ、必要に迫られて自己分析していたら、じぶんのパーフェクショニズムが母親に由来しているのではないかという仮説がたちあがりました。母の、私に対する期待。「千紘ならこれぐらいの高校に行かなくちゃね」というやんわりとした命令。しかもそれが世間体からくるものであると把握すればするほど、母の世間体を守れるのはじぶんだけだというセカイ系な価値観に溺れ、それにアジャストするようになったと思います。

 今なら、学歴の箔とか母親の世間体とか超どうでもいいと言えるのですが、そこに独断的な評価を見出してしまっていたのですね。そこからしか愛が供給されないと思い込んでいたので。

 ただ、それがわかったからといって、完璧主義というものを「完治」することはできません。ビョーキじゃないですし。そこで私の選んだ方法は、自分と他者に平等に興味を与えることです。平等に興味を与えないと言ってもいいです。標語風に言えば「ある程度は満足させて、ある程度は好きにする」です。

The business or the product must establish the system’s availability target. Once that target is established, the error budget is one minus the availability target. A service that’s 99.99% available is 0.01% unavailable. That permitted 0.01% unavailability is the service’s error budget. We can spend the budget on anything we want, as long as we don’t overspend it.
――”Site Reliability Engineering – HOW GOOGLE RUNS PRODUCTION SYSTEMS”
原文 http://landing.google.com/sre/book.html

 グーグルでは「可用性の目標 the availability target」と「誤算用のおサイフ the error budget」を定義することで、お客さんを満足させながらサービスを発展させていけると考えているようです。ちなみに、エンジニア界隈での可用性というのは「ちゃんとやっているということ=めったにトラブルが起こらず、起こってもすぐに直って信頼できること」です。

 要するに、ちゃんとやっているかどうかの「100%」と「99.99%」のちがいなんか傍からしたらわかりゃしないと。どれぐらいちゃんとしていればユーザーが満足するのか(What level of availability will the users be happy with)という問いの答えが、他者のためにやる部分と自分たちのチャレンジのためにやる部分のバランスになるというのです。

 ここに、新たな完璧主義がある。これまでの極端な完璧主義ではなく、バランスのとれた完璧主義(perfectionism équilibré)です。余地を残して、じぶんで計算できる完璧主義。いいじゃないですか。

 失敗できるエラーバジェットを決めておいて、それに向けてどんどんやりたいようにやる。その一方で、ちゃんとやっていると言われるだけのことを取り置いておく。そのバランスが、じぶんにとってちょうどいいように生きればいいと思う。

 例えば、やはり100%でやらないと気が済まないというひとは、鉄道の運転手や、お医者さん、ピースメーカー的な要素のある場所で活躍できます。逆に、ちゃんとやっていると思ってもらえるレベルを低くしたいなら、大物連載漫画家とかいいかもしれない。

 私は、感覚的にだけれど、「50% availability – 50% error budget」で考えてやっています。プロジェクトに協力しているときは、じぶんの都合を入れすぎないようもう少し可用性を高めますね。ただ、もちろん、私の作家性などが求められているときは、エラーバジェットを高めてどんどん失敗するようにしています。いろいろです。

 結婚などで誰かと暮らすときも、家事の分担やクオリティを可用性とエラーバジェットで考えておけばいいかなと思います。ついつい家事って完璧にやりたくなってしまいますが、どれぐらいで「ちゃんとやっている」と言えるレベルなのか定義しておくと、楽に暮らせるはずです。

 具体的には「ゴミの出し忘れは一回までOK、ただしゴミの滞貨が多くてプレッシャーになる場合は別途で金を払って収集してもらうことにする」とかね。結婚や同居をする前から、相手の家事の可用性を見抜いておくことも大事でしょう。完璧にゴミを出したいひともいれば、食器洗浄機を嫌うひともいますから。

 ある程度は満足させて、ある程度は好きにする――このリズムがわかってくると、「自分」にも「他者」にも、面倒くささを感じなくなります。むしろ楽しいというか、建設的になれるというか、前向きになれるというか、堪え性がなくてもやっていけるようになります。

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画像:Thought Catalog