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 もっと自然な英日翻訳ができれば、と考えている勉強熱心な翻訳者・翻訳者志望のために、ここでは英語の「名詞」に的をしぼって翻訳の勉強をしてゆきたいと思います。

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日本語と英語

 日本語と英語は、まったく別物です。それがすべての悩みの原因でもあり、翻訳という仕事が必要とされる理由でもあります。ただ「両者ちがうね」だけで翻訳がうまくなればよいのですが、実際にはもうすこし踏み込んで格闘せねばなりません。そのひとつの武器として「名詞」という観点をお配りするつもりです。

 英語は名詞化することを好みます。わかりにくいので極端に言えば、「アイスが当たった」ではなく、「アイスの懸賞の獲得」みたいな言いかたをするということです。翻訳しにくい文に出会ったら、おおかた、この英語らしい文体が原因だと考えることができます。

名詞を名詞で翻訳できない

 なかでも、名詞句や名詞節といった「名詞を中心にした表現部分」が肝です。ためしに見てみましょう。

Nogizaka46 is known for having a large pool of good performers — Nishino’s humble presence as a leading member apparently helps give others a chance to step into the spotlight.
――The Japan News “A strong, sensitive ace: Nogizaka46 star Nanase Nishino tackles 1st lead role in movie

 そのまま訳そうとすると、「乃木坂46は優秀なパフォーマーの大きな集まりを持っていることで知られている」のようになります。このままではあまり自然ではありません。名詞のかたまり(英)を名詞のかたまり(日)で訳すことに無理がある、ということです。英語と日本語は縁もゆかりもないので、おなじように置き換えてやることがなかなかできません。

 「原文通りに」というかつての呪詛が翻訳者を苦しめていますが、あえて言うなれば「原著者が日本語を使えたらどんな表現をするか」という発想にしてしまったほうが楽です。

原文の品詞を無視する

 ”(known for having)a large pool of good performers”という名詞句ですが、名詞句であることなんて気にしないほうがいいです。伝えるべくは「いい芸人がたくさん蓄えられた場所だね」ということです。

 訳としては、めちゃくちゃシンプルに「乃木坂46はどこを見ても多才です」とか、もうすこし力を入れて「乃木坂46と言えば、良いパフォーマーがたくさん集まっていることで有名です」とかになるでしょうか。もちろん千人の翻訳者がいれば、千個の訳例があると思います。”pool”には、たまり場という意味のほかに「予備の要因」というニュアンスもあるので、それも訳に出せるとさらによいでしょう。

 ”a large pool of good performers”の品詞は「形容詞+名詞+前置詞+形容詞+名詞」ですが、これをマジメに「大きい(形)+たまり場(名)←よい(形)+パフォーマー(名)」という風にしなくてよいのです。たとえば機械翻訳のグーグルでさえも、この部分は、

Nogizaka46は、優れたパフォーマー多数抱えていることで知られています。

このように「優れたパフォーマー(形+名)を多数(副詞)」というやりかたでつなげています。もともとの品詞を崩しています。そのほうがいいんじゃないか、という判断を下しています。

まとめ

 ここには正解やルールがありません。流行は僅かにありますが。わからないのが翻訳の面白いところでしょう。それっぽいコツはありますが、頼りになるときとならないときがあります。そういうものです。最初は難しく感じるかもしれませんが、だんだん慣れてゆきます。機械的に訳せるようにもなります。

 もちろん、「品詞を崩して訳すとよい」もひとつの価値観にすぎないというか、ひとつの流行にすぎません。いい翻訳というのは、いろいろな要素――たとえばクライアントの指示や希望、時流、文脈、掲載媒体、売上、実績など――によります。時と場合によっては、誤訳さえも素晴らしい翻訳として認められ得ます。

 そういういろいろなものをフラットにしながら、ここでは「訳しにくい名詞句を崩す」練習をして参ります。どうぞ、よろしくお願いいたします。

 

 英語がどのように意味を転用してゆくのかわかります。名著です。

 

 ヒトラーの演説からドイツ語の名詞表現を理解しています。