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 英語学習者であれば、耳目に触れ、心を打たれ、洗礼を受けたことのあるであろう「英語は3語で伝わる」という魔法のことば。私もよく関連本を買っていました。

 あるひとは褒め称え「テクニカルライティングの究極体だ!」と喝采し、あるひとは「ぜんぜんちがう内容になってるじゃん!」とこきおろします。そのどちらのかたの言いたいこともわかります。

 3語で簡単なはずなのに、どうして「できるようにならなかった」ひとたちがいるのでしょうか。この記事は、英語は3語で伝わる(3語の英語)で上達できなかったひとのための記事です。

わかるひとのための上達法だった

 さて、2016年に上梓された実用書のなかで、とある著者はこのように語ります。

その鍛錬の中で、私は1つの結論に達しました。内容が複雑であればあるほど、それに見合った複雑な英文を組み立てるのではなく、その逆を目指すべきだとわかったのです。
――中山裕木子『会話もメールも 英語は3語で伝わります』

 おわかりのとおり、英語は3語というのは、基本的にモア・エキスパートな発想です。鍛錬のなかでたどり着いたアイデアです。その例外として、”My job is an editor of books.”→”I edit books.”などの〈初学者に有益なもの〉があるんですね。

 繰り返し言わせてください、例外として、こういった初学者にも便利で有益な言い換えがあります。

 「3語の英語」は、英会話初学者にとって、薬でもあり毒でもあるパルマコンなのです。役に立つものはいただけばいいけれど、そのままではいつまでも「英語で喋る」という基礎ポイントにたどり着けません。

 その上で、私は、最初は「3語の英語」を採用すべきだと思います。それがなぜなのか「距離感の見直し/時間把握の出直し」という観点からお伝えします。

距離のちがい

 むずかしいことを言っていますが、かんたんに言い直します。英会話初学者が最初にやるべきことは、〈言いたいこと〉を言うためにどれぐらいの距離がかかるか把握することです。

 たとえば、日本語で「扉が閉じていたけど開いたという新たな状況」を言いたいとき、どのように伝えるでしょうか。

例:「扉があいた(よ)。」(4-5語,7-8モーラ)
※モーラというのは「拍」のことです

 4-5語(扉,が,あく,た,よ)、7-8モーラ(と,び,ら,が,あ,い,た,よ)が必要です。これが日本語の距離感です。最後の「よ」は呼びかけのための終助詞なので、あってもなくてもいいです。

 続いて、英語です。おなじく「扉が開いたという新状況」を言いたいときに、どのようになるか考えましょう。

例:「The door opens.」(3語,2モーラ)
※ここではカウントしませんでしたが、冠詞を1モーラとして数えることもあります。たとえば”This is a pen.”は、”dis-sis-zap-pen”と聞こえるので、”a = zap”として1拍にカウントできます。

 かなり少なくなりました。なかなか英会話が上達しないひとは、この距離感を測りかねているのです。

 ドアが開いたことを言いたいときに、英語では拍がふたつです。テンポで記せば「タタン(the door)・タン(opens)」です。

事前に吸う空気の量がちがう

 「これを言いたいな」と思ったとき、それがどれぐらいの距離なのかを感覚として――まずは間隔 interval として――わかっていることが重要です。なぜならば、それを知っていない状態ではぎこちなくなるからです。

 7拍の「扉があいた」と言うまえに吸う空気の量と、2拍の「The door opens」と言うまえに吸う量が(物理的にも、イメージ的にも)異なっているということです。

 ちなみにフランス語では「la porte s’ouve.」なので3拍ぐらいです。無理やりカタカナにすれば「ラ・ポルト・スーヴル」ですかね。

 言いたいことと、そのために吸う量が一致するようになると、うまく話せるようになると思います。このあたりは頭で考えるよりも、訓練です。

まず積み立てるべくは距離の知識

 いちいち「これは3拍(3モーラ)だな」とか考える必要はありません(もちろんやっても構いません)。短いとか、長いとか、そういう感覚が大事です。話しながら考えるものではありません。最初は日本語で言ったときと比べてみるといいかもしれませんね。

 いくつか例を出してみますが、距離把握/時間把握はじぶんでやるべき作業です。英語に触れるたび「やっぱり英語だと短いな」とか、「英語だと結構かかるな」とか、覚えていくとよいでしょう。

日本語:「すみません、いまのは忘れてください」(17拍)
英語:”Sorry, let’s forget it”(5拍)
※敬語になると日本語のほうが圧倒的に長くなります

日本語:「適当に決めようぜ」(10拍)
英語:「”Let’s wing it”」(3拍)
※その場の流れで決めるのがよい、という提案をするとき日本語だとそこそこ長めですが、英語では(やはりと言うべきか)3拍で足ります。

日本語:「同感(だね)」(2-4語,4-6拍)
英語:”You bet”(2語,2拍)
※おなじ意見や感覚であることを伝えるときは距離感が近いです。ほかにも”Couldn’t agree more”と言えば、3語4拍でさらに近いです。

日本語:「ひとつください」(7拍)
英語:「Can I have one」(4拍)
※拍の数がやや減るのもそうですが、疑問文になるところでむずかしさがアップしています。

日本語:「今年で25(です)」(8-10拍)
英語:”I’m turning 25 this year”(7拍)
※こちらもかなり近いので、今年で何歳になるのか伝えるときに初心者でも言いやすいかなと思います。

日本語:「ホント?」(3拍)
英語:”Are you sure?”(3拍)
※冗談かどうかを確認したいときはどちらも短めです。「マジ?」(2拍)と”Really?”(2拍)も同様。それゆえこのあたりは言いやすいでしょう。

 こんなもんでしょうか。3語じゃなくていいので、〈こういうことが言いたい〉という内容と、実際に話す「日本語・英語」がどれほど離れているのか知るとよいでしょう。

 そして、最後は英語の距離に慣れて、英語で話すときは英語の距離だけで呼吸できるようになるとよいかなと思います。

まとめ

 英会話には、単語を知ること、イディオムを知ること、発音を知ること、生活習慣を知ることなどたくさんの要素があります。

 その基礎工事中に最も大事なのは、「伝えたいことを言うための適切な距離感」を知ることだと思います。

 今年で何歳なのか伝えるには8拍ぐらい必要だ、という距離感です。もちろん文脈のなかで年齢だけ言えばよさそうなら”Twenty.”の1拍だけで済むこともあります。

 そこで最初に戻りますが、「3語の英語」という発想を採用することで、短めの距離に慣れることができます。もっと言えば、こんなに短くていいんだ、という許しをセルフで得るべきです。

 短いから、短くていいんです。それだけのことです。

 そして短くなることに慣れたら、3語の英語は忘れてください。あれは毒にもなることがあります(なぜなら形式のために表現したいこと自体を変更することがあるので)。毒という言い方でなければ、3語の英語は「しつけ糸」です。あとで解くために縫うものです。最後には外すための道具です。

 英語の拍がわかるようになれば、あとはスイスイできるようになります。拍で話せるようになると、拍で聞こえるようになります。

 つまり、途中で書きましたが、”This is a pen.”が”zis-sis-zap-pen”と聞こえるようになります。この文中の不定冠詞”a”が、ひとかたまりとして”zap”に聞こえたら、もう大丈夫です。

 そのステップにたどり着くために、まずは拍を感じるのがよいです。何度も強調しますが、「英語は3語で伝わる」という形式にとらわれずにうまく利用してみてください。


画像:Fabian Burghardt