Pocket

 テープ起こしは、意外と需要があるものです。主婦・主夫の副業になったり、学生が講義や講演会をテキストにしたり、会議を文字にして見直したり、実は浮気調査で長いテープを起こしたりすることもあります。ここでは「テープ起こし」について、わかりやすくまとめたいと思います。

[toc heading_levels=”2,3,4″]

テープ起こしとは

 テープ起こし(文字起こし・録音反訳)というのは、録音された音声をテキストにすることです。冒頭で記したように、講演会・会議・インタビュー・会話などを聞きながら、文字にしてゆきます。

 ポイントとなるところは「聞く」ことしかできないところです。もちろんささやかな情報を調べることはできますが、「その場にいない」ことによる情報不足がテープライターを襲います。滑舌のよい一人の話者がゆっくり喋っているものは簡単ですが、学者と学生の三人の鼎談でレコーダーの位置が偏っていると最悪です。

テープ起こしの歴史

 「孔子曰く」なんていうのも、文字起こしみたいなものです。むかしは発話スピードに、人力入力スピードが追いつかなかったので、要約モノが多いようですね。いちおう古代ローマの時代から「速記shorthand」という技術が開発されてはいましたが、ひとつの知識として体系化されたのは17世紀ぐらいだと言います。

 速記術は、ヨーロッパから輸入した概念です。日本では19世紀ごろに翻訳され、「語ヲ簡略ニスル書法」という速記(shorthand)と、「早書ヲスル術」という速記(stenography)に分けておりました。

 19世紀後半にはタイプライターが実用化し、手書きよりも入力スピードが上がります。

テープ起こしの種類

 「素起こし」「ケバ取り」「整文」といった種類があります。

素起こし

 「清書」という概念を除外したテープ起こしで、具体的には「あー/えー」といった間投詞や、「要するに/正直に言って」といった意味のない口癖をすべて余すことなく書き起こすこと、です。簡単そうに見えて、非常に時間がかかります。

ケバ取り

 「毛羽」を取るということは、いらない部分を削ろうということです。意味のある部分だけを残しながら、あとは言われた順番に並べるということです。この認識に大きな落とし穴があるのですが、それについては「実務上の問題点」で後述いたします。

整文

 ケバ取りだけではなく、さらにそれを「清書」します。つまり、読み物に限りなく近づけ、クライアントによっては、すべて書き言葉に替えるとか、見出しを三つ用意するとか、ハイレベルな注文がいくつか追加されるところなので、文章を構成する能力などが求められます。

テープ起こしに必要な環境

 テープ起こしに必要な環境は、音声を再生するもの、文字を入力するもの、それぐらいです。ただし、どれだけじぶんの環境を改良していけるかが、作業内容を改善してゆくことにつながります。

 具体的には、「再生」「入力」になにを導入するか、ということです。装着しても疲れないイヤフォンやヘッドフォンを探すこと、再生速度を変えても音程が変わらない再生プレイヤー、タイピングしやすいキーボード、タイプしてから認識するまでにタイムラグがないスペックのパソコンなどなど。

 最近よく聞くのは、人工知能とデータベースを利用した音声入力です。”iPhone”の音声認識システムが正確で便利だという声を聞きます。私もときどき使います。英語のテープ起こしのときのほうが役立ちます。

テープ起こしの上達方法

 テープ起こしの上達には、三つの方向性があります。ひとつは、どれだけ作業時間を減らせるかです。二つ目は、どれだけ知識を増やせるかです。三つ目は、聞き取れないものをどうするかです。

作業時間削減

 タイピングの速度が大事です。

 ただ、タイピング速度にもいろいろあります。たとえば、ローマ字による入力で”10″かかるひとでも、かな入力で”20″のひとと大差ありません。”sa”は二回タイピングしますが、「さ」は一回です。”sa yo u na ra”は九回ですが、「さようなら」は五回です。

 速度以上に大事なのは、タイピングの精度です。

 「sa yo u na ra」が九回だという話をしましたが、ミスタイプしたらどうなるでしょう。「sa oy u na ra」でまず九回。修正位置を選んで消しますが、クリックとタイプを組み合わせても最低は二回必要です。そして修正内容「yo」を改めて入力して二回――全部で十三回も打っています。これは単純計算ですが、かな入力を正確にタイピングしたひとは五回、一箇所ミスをしたローマ字入力のひとは十三回も打ちました。

 次に音声速度です。なにも気にしないとふつうに流してしまいますが、それで追いつけるひとは、なかなかの熟達者です。もちろん音声内容によっては、速度を変えずに(あるいはちょっと速くして)起こすことも可能ですが、慣れないうちは”0.6倍速”ぐらいで聞くと作業がはかどります。

 そして案外見過ごされているのが、確認で一通り聞くときの速度です。120分のテープ起こしなど、確認だけで二時間も消費してしまいますから、”1.5倍速”ぐらいで確認をしたいです。

知識補強作業

 テープ起こしは、簡単なものから難解なものまでピンキリです。ただ根本的な難しさというのもあって、それは、知らないと聞き取れないという人間の構造です。「tsu gi wa ka n na i de su」という音声があったとして、これだけでは正解がわかりません。話者がなにを想定していたのか、どういう文脈なのかによって決まります。

 「次、分かんないです」と言ったのかもしれないし、「次、稚ん内です」と発音しまちがえたのかもしれないし、「次は館内です」という案内かもしれないし、「次は関内です」というアナウンスだったかもしれません。これは、テープライターが想像力を働かせるところです。

 初歩的な部分で、このようなむずかしさがあります。まるでその場にいるように聞くこと、そしてその場で語られることを聞き取れるレベルには知っていることが肝心です。

調査と想像と悪あがき

 聞き取れない箇所が必ず出ます。どうしても無理なときは「●●●(不明瞭)」とか「***(三文字不明)」などとして返すことになるのですが、それではテープライターとして悔しいです。

 聞き取れないときは、①録音上の障害(声がかぶっている、声が遠い)、②発声の問題(言いよどみや早口)、③知識の問題(テープライターがそれを知らない)あたりが原因となります。

 まず「③」は、関連の本を読むとか、日頃から新聞や専門誌に触れておくとかが必要なので、ライターの自己研鑽でどうにでもなります。「②」を聞き取るのも仕事なので、できるだけ想像して、このひとならなにを言うのか考えます。

 このあたりはコツもあって、たとえば、再生スピードを切り替えると簡単に聞こえたとか、最後まで聞き通したらなにを言っていたのかわかったとか、イコライザーで特定の周波数をいじったらかろうじてわかったとか、いろいろあります。単にじぶんが疲れていた、なんていう盲点もあります。十五分くらいで休みましょう。

 「①」の録音上の問題はどうにもなりませんが、それでも悪あがきをするのがテープライターです。聞き取れる箇所をどうにか増やして、「明日は、アイタ●●●(二秒不明、マルカ?)の提出があります」などと添えて出すようなこともあります。

実務上の問題点

 テープ起こし(反訳)は、基本的に簡単だと思われがちです。そのため、不慣れなクライアントになると、必要な情報をあらかじめ与えてくださらないことがよくあります。「質問したら印象が悪いかな……」と臆せずに、どういう出来が理想的なのか、しっかり確かめてから合意を取りましょう。

 たとえば、「ケバ取り」といっても、認識はひとつではありません。つまり「不必要な部分を取る」という認識にズレがある場合だってあります。「あー」は要らないけれど、口癖は要るとか。「~~は△△でですね」のような冗長な語尾はスパッと切るとか、あるいは切らないとか。

 ときには、ケバ取り=素起こし、という認識のひともいます。それが悪いというわけではなく、認識というのはいつだってズレており、齟齬ベースですから、どんな起こしかたを求めているのか確認することが欠かせないということです。

 そういう私も、このあいだ確認が不十分で、終わったあと「学生インタビュアの質問は要約でもよかった」と教えてもらい、(そ、そ、そ、そ、それをもっとはやくぅ~!!)と内心で叫びました。相手のせいではありません。だれのせいでもありません。次からはおたがい確認をしようね、というだけの話です。

 

 テープ起こしにおける表記は、こちらに従うのが通例です。

 

 文字起こしのテストテキストです。こういうものを買う前に、”Youtube”などで国会を聞きながら、発言を書き起こしてみるのもいいと思います。

 

 速記についてもっと詳しく知りたいかたへ。


画像:Rawpixel.com